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東京地方裁判所 昭和52年(ワ)1750号 判決 1980年4月28日

原告

地興産株式会社

右代表者

藤野正三

右訴訟代理人

伊沢安夫

被告

右代表者法務大臣

倉石忠雄

右訴訟代理人

飯原一乗

右指定代理人

中山哲一

主文

被告は原告に対し、金五、一二一万四、二〇〇円及びこれに対する昭和五二年三月五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

この判決は第一項に限り、原告において金二、〇〇〇万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。但し、被告において金二、〇〇〇万円の担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

(一)  被告は原告に対し、金一億一、三九五万円及びこれに対する昭和五二年三月五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

(三)  仮執行の宣言

二  被告

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

(三)  仮執行宣言付原告勝訴の判決のある場合は、仮執行免脱の宣言

第二  当事者の主張

一  請求原因

(一)  原告は住所地において砕石、砂利の採取及び販売等を業とする会社であり、訴外西岡亨(以下、「本件担当執行官」という。)は釧路地方裁判所帯広支部所属の執行官である。

(二)  訴外拓釧建設運輸株式会社(以下「拓釧建設」という。)は原告に対し、金一三二万〇、四〇〇円及びこれに対する遅延損害金の支払を命ずる仮執行宣言付支払命令(帯広簡易裁判所昭和五〇年(ロ)第七六七号)を債務名義として、昭和五一年四月八日別表C欄記載のとおり原告所有にかかる洗砂④(以下、「④物件」という。)を、また訴外田中良一は原告に対し金一、五〇〇万円等の支払を命ずる判決(釧路地方裁判所帯広支部昭和五一年(手ワ)第一〇号)を債務名義として、同年七月二四日別表D欄記載のとおり原告所有にかかる切込砕石①(四〇ミリメートル)、切込砕石②(八〇ミリメートル)及び洗砂利③(二五ミリメートル)(以下、それぞれ順に、「①物件」、「②物件」、「③物件」という。)を差押え、洗砂(④物件)について照査手続をした。更に、拓釧建設及び田中良一は前記各債務名義に基づき、別表F、G欄記載のとおり同年八月二五日原告所有の洗砂利⑤(四〇ミリメートル)(以下、「⑤物件」という。)を、同月二八日には同じく砕石⑥(二〇ないし三〇ミリメートル)(以下、「⑥物件」という。以上の①ないし⑥物件を総称して「本件各物件」という。)を、それぞれ差押えた。そして右各差押に基づく競売手続において、訴外黒川十五は昭和五一年八月二五日別表E欄記載のとおり①ないし④物件を各金五〇万円合計金二〇〇万円で競落し、訴外杉山遠雄は同年九月一三日同表H欄記載のとおり⑤物件を金三五万円で、⑥物件を金一五万円で、それぞれ競落した。

(三)  本件担当執行官は、右各債権者の委任に基づき右差押及び競売手続を行つたのであるが、右手続は以下のとおり、同執行官の故意又は過失に基づく違法なものであり、これによつて原告は後記損害を蒙つた。

1 執行官は、有体動産の差押をなすにあたり、その評価については正当かつ妥当な方法をもつてこれをなし、不当に債務者の利益を害することのないように注意して執行すべき義務がある。ところが本件担当官は、本件各物件の差押にあたり、それらが建設土木資材等に使用される砕石、洗砂、洗砂利であり、時価がどの程度であるか不明であつたのでるから、鑑定人を選任しその適正な評価額の鑑定を俟つなどして適正かつ妥当な評価をなすべき義務があるのにこれを怠り、債権者及び自己独自の判断で漫然と別表C、D、F、及びG欄各記載のような評価をした。しかしながら本件各物件の実際の価額は別表I欄記載のとおりであつて、本件担当執行官のした前記各評価(別表C欄については単価、数量とも、その他は単価)は著しく実体とかけ離れており、到底適正、妥当とはいえない違法な評価であつた。

2 また一般に執行官は、有体動産の競売をなすにあたつては、特別の事情がない限り、差押物件が適正な価額で競落され、不当に債務者の利益を害することのないよう注意して執行すべき義務があり、競買人の競買申出価額が時価に比して著しく低廉であると認められるときには、競落を許さず、競売期日を延期するなどして可及的高価に競落されるよう努めるべきである。

ところが本件担当執行官は、昭和五一年八月二五日の競売期日において、別表C、D欄記載のように自ら合計金一、六四〇万円と評価した①ないし④物件について、金二、〇〇〇万円位で競買を希望している者がいることを知りながら、あえて別表E欄記載のとおり各金五〇万円合計金二〇〇万円で競買を申出た前記黒川に右各物件の競落を許可した。

また同執行官は、昭和五一年九月一三日の競売期日において、別表F、G欄記載のとおり自ら合計金一、〇一〇万円と評価した⑤、⑥物件について、別表H欄記載のとおり合計金五〇万円で競買を申出た前記杉山にその競落を許可した。

(四)  なお、その他次のような事情がある。

1 本件担当執行官は、昭和五一年四月八日別表C欄記載のとおり、④物件として七、〇〇〇立方メートルの数量を差押えたにすぎないのに、同年八月二五日には別表E欄記載のとおり一万六、〇〇〇立方メートルにわたる数量の④物件についてその競落を許可し、もつて差押えていない物件を競売した。

2 本件担当執行官は、昭和五一年八月二五日の競売期日において、現場に立会つた者が①ないし④物件につき金二、〇〇〇万円位で競買を希望する旨述べた際、田中良一が本件各物件の置いてある敷地は同人が原告から賃借しており右物件を競落した者は少なくとも一週間以内にこれらを搬出するようにという競買希望者の意気を沮喪させるような虚偽又は不当な言辞を弄したにもかかわらず、右内容の真否、当否を調査をすることなく、また前記競買希望者の意向をも看過し、他に競買希望者がいないとして、前記のとおり黒川十五に合計金二〇〇万円で①ないし④物件の競落を許可した。

3 本件担当執行官は、前記の差押執行手続に先立ち、訴外広尾砂利有限会社(以下、「広尾砂利」という。)の原告に対する請求債権元本額金三〇〇万円の仮差押決定(釧路地方裁判所帯広支部昭和五〇年(ヨ)第六五号)に基づき、昭和五〇年一二月二二日別表A欄記載のとおり①ないし⑤物件の仮差押執行手続をした。ところが同執行官は更に、訴外株式会社地崎工業(以下、「地崎工業」という。)の原告に対する請求債権元本額金三、二七七万円の仮差押決定(釧路地方裁判所帯広支部昭和五一年(ヨ)第一三号)に基づき、昭和五一年四月八日別表B欄記載のとおり、同じく①ないし⑤物件の仮差押執行手続を行つたのであるが、仮差押目的物件が全く同一であるにもかかわらず、その単価、数量、価額は著しく異なつている(後者の仮差押数量の方が多いのであるから、さきに一部仮差押した部分については照査手続をなすべきであつた。)。

(五)  本件担当執行官は、被告国の公権力の行使にあたる公務員であるところ、本件各物件の単価、数量は別表I欄記載のとおりであり、その価額が合計金一億一、六四五万円を下らないものであるにもかかわらず、これを著しく不当な方法により、低廉な価額(合計金二、六五〇万円、別表C、D、F及びG欄参照)で評価したうえ、更にこれをはるかに下回る僅か合計金二五〇万円(別表E及びH欄参照)で競落を許可した違法有責な行為により、原告は、本件各物件の価額と右競落代金との差額合計金一億一、三九五万円の損害を蒙つた。

(六)  よつて、原告は被告に対し、国家賠償法一条に基づき、金一億一、三九五万円及びこれに対する昭和五二年三月五日(本件訴状送達の日の翌日)から支払ずみまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否<以下、事実省略>

理由

一当事者等

原告が住所地において砕石、砂利の採取及び販売等を業とする会社であること、本件担当執行官が釧路地方裁判所帯広支部所属の執行官であることは当事者間に争いがない。

二本件各物件の差押及び競売の経緯

本件担当執行官が昭和五一年四月八日拓釧建設の委任により、同会社の原告に対する仮執行宣言付支払命令(帯広簡易裁判所昭和五〇年(ロ)第七六七号、債権元本金一三二万〇、四〇〇円)に基づき、有体動産の差押執行手続を行い、別表C欄記載のとおり、原告所有にかかる④物件を差押えたこと、同執行官が昭和五一年七月二四日田中良一の委任により、同人の原告に対する判決(釧路地方裁判所帯広支部昭和五一年(手ワ)第一〇号、債権元本金一、五〇〇万円)に基づき、有体動産の差押執行手続を行い、別表D欄記載のとおり、原告所有にかかる①ないし③物件を差押え、④物件について照査手続を行つたこと、同執行官が昭和五一年八月二五日拓釧建設及び田中良一の委任により、右両名の原告に対する前記各債務名義に基づき、有体動産の差押執行手続を行い、別表F欄記載のとおり、原告所有にかかる⑤物件を、また同月二八日右両名の委任により、右同様の債務名義に基づき、有体動産の差押執行手続を行い、別表G欄記載のとおり、原告所有にかかる⑥物件を差押えたこと、同執行官が右各差押に基づく競売手続において、昭和五一年八月二五日黒川十五に対し、別表E欄記載のとおり、①ないし④物件について各金五〇万円合計金二〇〇万円で、また同年九月一三日杉山達雄に対し、同表H欄記載のとおり、⑤物件について金三五万円、⑥物件について金一五万円で、それぞれの競落を許可したこと、以上の事実はいずれも当事者間に争いがない。

三本件各物件の価額

原告は、本件担当執行官が右各差押執行手続における物件の評価算定方法を誤まり、また著しく低額の競買申出に対して競落を許可したため、その所有にかかる本件各物件の時価と右競落額との差額相当額の損害を蒙つたと主張するところ、本件各物件の数量がいずれも別表J欄記載のとおりであることは当事者間に争いがないので、本件各物件の単価(価額)について、判断する。

<証拠>を総合すると、昭和五一年当時における本件各物件の一立方メートル当りの単価は別表J欄記載のとおりであること、即ち、①物件は金一、三〇〇円、②物件は金一、二〇〇円をそれぞれ下回るものではなく、③物件は粒度一三ミリメートルから二五ミリメートルの、また⑤物件は粒度一三ミリメートルから四〇ミリメートルの砂利で、いずれも粒度一三ミリメートル未満の砂利を含んでいないものであるところ、帯広地方において規格品として適用している砂利は、③物件に対応する洗砂利二五ミリメートルでは粒度五ミリメートルから二五ミリメートルの、また⑤物件に相当する洗砂利四〇ミリメートルでは粒度五ミリメートルから四〇ミリメートルの砂利であり、その単価はいずれも金一、三〇〇円を下らないものであること、③、⑤物件を右規格品とするためには粒度調整を必要とするが、その費用は砂利の再製造に要する費用(原価の三割)を上回るものではなく、右単価は原価に八パーセントの利益を上積したものであるから、③、⑤物件自体の単価は、いずれも規格品単価金一、三〇〇円から、規格品原価金一、二〇三円(円未満切捨、以下同じ。)の三割である金三六〇円を控除した金九四〇円を下回るものではないこと、④物件は砂としての粒度範囲がまばらであるなどの難点があるが、再製造すれば少なくとも金一、三〇〇円の価値があるので、④物件の単価は、これから再製造に要する費用(原価の三割)を控除した金九四〇円を下回るものではないこと、⑥物件は帯広周辺では通常用いられていないが、粒度調整を施せば①物件の三割高、即ち金一、六九〇円と評価できるので、前同様粒度調整費用を原価(原価に八パーセントの利益を上積したものが単価)の三割とみて計算すると、⑥物件の単価は金一、二二一円を下回るものではないこと、そして以上の本件各物件の単価に前記の数量を乗じたものが本件各物件の価額であり、その額は別表J欄記載のとおりであることが認められる。

尤も、被告は、本件各物件はいずれも泥混りであり、また死石が多いなど劣悪であり、現に広尾砂利が後に本件各物件を買受けたものの、本件各物件にはかなりの量の土砂等が混入しており、そのため選別を要し、かなりの減量となつた旨反論し、<証拠>中には、本件各物件には多量の泥、シルト、ダストが混入しており、水洗いを要すること、砂利の比重が通常要求されている1.8を下回つており、その調整を要し、また①、②物件自体が帯広付近で用いられていない商品であるなど、被告の右反論に副う部分があるが、<証拠>によつて認められる事実、特に、原告はその製造する砂利、砕石について充分な水洗いを施していたこと、本件各物件は昭和五〇年暮ころまでに生産され、現場に堆積、放置されていたので、その表面には付近のダストが付着し、降雨雪により固まつたため、表面だけみるとシルト分が多いようにも見えること、原告の製造にかかる砂利の骨材試験結果によると、その比重は2.64であること、一般に砂利、砕石類に死石の混入を避けることはできないが、本件各物件中に占める死石の割合は、通常の砂利、砕石類と比べて多くはないこと、と対比、対照すると容易に採用できない。

また<証拠>中には、広尾砂利は競売後黒川十五及び杉山達雄から本件各物件を(三万立方メートルと算定のうえ)合計金五〇〇万円で買受け、同会社がこれを現場から運び出したことが認められるが、黒川及び杉山が本件各物件を僅か合計金二五〇万円で競落したことは前記のとおりであり、<証拠>によれば、黒川及び杉山は砂利、砕石業者ではないと窺えることからすると、右両名が業者に対し、時価の七パーセント程度とはいえ取得価額の倍額で、六万五、〇〇〇立方メートルにものぼる砂利、砕石を、他に何らの費用も出捐せずに、遅滞なく、一括して、転売したとしても、不自然なこととは考えられないから、結局、右のような事実が認められるからといつて、直ちに前記認定を左右するものとはいえない。

更に<証拠>中には、広尾砂利が昭和五一年末ころ、②物件を単価金八〇〇円で他に納入したとの部分があるが、広尾砂利は、本件各物件を一立方メートル当り約一六六円で買受けたことになるのであるから、②物件を時価より安い(三分の二)とはいえ取得価格の五倍で他に納入したとしても、不自然とはいえず、前記認定を左右するものとはいえない。その他、<証拠>中、前記認定に反する部分は、前掲各証拠と対比すると採用することができず、他に右認定を左右する証拠はない。

なお、原告は、本件各物件の単価(価額)が右認定額をはるかに上回る別紙Ⅰ欄記載のとおりである旨主張し、<証拠>中には、これに副う部分があるが、前掲各証拠と対比すると容易に採用することができず、他にこれを認定できる証拠はない。

四差押評価及び競落許可の相当性について

一般に執行官は、有体動産の差押にあたり、差押物の評価をなすこととされているが、これは、債権者の利益と共に債務者の利益をも併せ考慮して、有体動産の強制執行を合理的かつ適正なものとする趣旨に出たものであるから、執行官は、右評価をなすにあたつては、正当かつ妥当な方法をもつてこれを行うべきであり、また競売にあたつては、特別の事情のない限りは、差押物件が適正な価額で競落され、不当に債務者の利益を害することのないよう配慮し、注意して執行すべき義務があるというべきである(最高裁判所昭和三七年三月二二日判決、訟務月報八巻四号六〇六頁参照)。

そこで本件各物件の差押評価及び競落許可の相当性について具体的にみると、<証拠>に前記当事者間に争いのない事実及び本件各物件の単価(価額)に関する前記認定事実を総合すると、以下の事実が認められる。

(一)  本件担当執行官は、昭和五〇年一二月二二日広尾砂利の委任により、同会社の原告に対する仮差押決定(釧路地方裁判所帯広支部昭和五〇年(ヨ)第六五号、債権元本金三〇〇万円)に基づき、有体動産の仮差押執行手続を行い、別表A欄記載のとおり、原告所有にかかる①ないし⑤物件を仮差押した(右事実は当事者間に争いがない。)。

本件各物件は、いずれも建設土木資材等に用いられる砂利、砕石類であり(右事実は当事者間に争いがない。)、専ら東京市場に向けて製造されていたものであるが、それぞれその数量が数千立方メートルをこえる膨大なもので、しかも屋外に堆積されたままの状況にあり(加えて当日は天候が悪く、長靴が潜るほどの積雪もあつた。)、その数量、価額の算定、評価にあたつては、専門的知識、経験を要するものであつたが、本件担当執行官は、過去に一〇数件ほど砂利、砕石類の強制執行手続を行つたが経験あつたものの(尤も、その際における差押物件の算定、評価は業者である当事者間にまかせていた。)その算定、評価につき専門的知識、経験を有するものではなかつた。そして本件担当執行官は、①ないし⑤物件を差押えるにあたり、その数量、価額の算定評価もまた業者である当事者に任せたところ、広尾砂利側は立会人である債務者(原告)の取締役兼工場長、野口の意見もきかないで①ないし⑤物件の算定評価を行つたのであるが、当日の悪天候で計測等ができないため、①ないし⑤物件の単価はいずれも金一〇〇円程度で砂利類(③ないし⑤物件)には半分位泥が混入しているなどとして、債権額の範囲内に収まるよう、①ないし⑤物件の単価、数量、価額を、別表A欄記載のように割振り、本件担当執行官に報告した。これを受けた本件担当執行官は、特に野口の意見を徴することもなく、右算定評価を自らのそれとしてそのまま採用したのであるが、その算定数量をきいた野口が同執行官に対し、④物件(一万六、〇〇〇立方メートル)が僅か七、〇〇〇立方メートルと算定されていることに異を唱えたところ、同執行官は、債権者の広尾砂利から砂利類には半分位泥が混つており、水洗いした場合に残る砂の量は山全体の半分位であるなど聞かされていたので、数量七、〇〇〇立方メートルというのは、④物件の山全体の数量を算定したものではなく、山全体からみればその一部の数量である旨答えた。そこで野口は、洗砂(④物件)自体の一部についての仮差押をしたにすぎず、また他の物件についても同様であると考え、それ以上の異を唱えなかつた。

(二)  本件担当執行官は、昭和五一年四月八日地崎工業の委任により、同会社の原告に対する仮差押決定(釧路地方裁判所帯広支部昭和五一年(ヨ)第一三号、債権元本金三、二七七万円)に基づき、有体動産の仮差押執行手続を行い(右事実は当事者間に争いがない。)、これと並行して、前記拓釧建設の委任に基づき、有体動産の差押執行手続を行つた。

まず仮差押手続については、債権者側からは、砂利、砕石類の専門家ではなく土木業者である訴外高橋剛らが数量計測のため派遣されてきたにすぎなかつたのに、本件担当執行官は、差押物件の数量、価額の算定、評価を債権者側に任せ、右高橋らが中心となつて①ないし⑤物件の数量概数の算定を行い、合計三万五、六、〇〇〇立方メートルとの概算結果をえて、債権者の地崎工業側にこれを伝えたところ、これを聞いた立会人野口が少なくとも五万立方メートル以上はあると異を唱えたので、債権者側もこれを斟酌し、最終的に数量を五万九、〇〇〇立方メートルと算定した。これに対し、単価の評価については、専ら債権者である地崎工業側が、右高橋や野口の意見を徴することもなく一方的に行い、右数量とあわせて、本件担当執行官に、別表B欄記載のとおり、その単価、数量、価額を報告した。本件担当執行官は、債権者から右の単価、数量、価額を聞き、さきに行つた広尾砂利を債権者とする仮差押執行手続の際の単価、数量、価額と比べて著しく多額、多量となつていることに驚いたけれども、右の食い違いについて、高橋及び野口の意見を聞くこともせず、右算定評価をもつて、そのまま自らのそれとして採用した(なお本件担当執行官は、①ないし⑤物件についての右仮差押執行手続にあたり、さきの広尾砂利を債権者とする仮差押執行手続の際の算定評価額と著しく異なる算定評価額を採用したことから、同一物件の仮差押執行手続でありながら、照査手続をとらずに、二重の仮差押執行手続とした。)。

他方、並行して行つた差押執行手続については、本件担当執行官は、債権者側の立会人がなく、また債権元本額との均衡もあつて、別表C欄記載のとおり、④物件を、広尾砂利を債権者とする仮差押執行手続の際に算定評価した単価、数量、価額(地崎工業を債権者とする仮差押執行手続の際のそれと比較すると、はるかに少額、少量)と同一に算定評価のうえ、差押えた。

(三)  本件担当執行官は、その後、昭和五一年五月八日、同月三一日、同年六月二五日の三回にわたり、右④物件の差押に基づき競売期日を開いたが、前二回の期日には野口から、原告と各債権者間で示談交渉中と聞き、競買申出人もなかつたので、いずれも中止とした。ところが、原告と債権者間の示談交渉が難行したため、原告は競売手続の進行もやむなしと判断し、債権者との間で、転売利益と予想競落価額(評価額)との差額を債務の弁済に充当するとの協議を整えたうえ、原告の実質オーナーである川部宏は、昭和五一年六月二五日の競売期日に先立ち、電話で本件担当執行官に対し、④物件の競売について質したところ、同執行官は、④物件差押の際の数量算定にあたり、同時に行つた地崎工業を債権者とする仮差押執行手続の際の算定数量を採用することなく、その半分以下である広尾砂利を債権者とする仮差押執行手続の際のそれを採用したことの弁解のため、右は一部差押であり、特定されていないので、競落、搬出しようとする者はいないと答えた。そのため、原告側では、④物件(及びその後の差押にかかるその他の本件各物件)は競落されないものと判断し、債権者対策を翌春まで延期することにした。なお、昭和五一年六月二五日の④物件の競売期日には競買申出人がいなかつた。

(四)  本件担当執行官は、昭和五一年七月二四日前記田中良一の委任に基づき、有体動産の照査、差押執行手続を行い、①ないし③物件を差押えたが、その際の各物件の単価、数量、価額の算定評価は、地崎工業を債権者とする前記仮差押執行手続の際のそれを踏襲した(別表D参照)。

(五)  そして本件担当執行官は、昭和五一年八月二五日以上の各差押に基づき、①ないし④物件の競売期日を開いた(①ないし③物件については一回目。④物件については実質上二回目、形式上四回目。)。ところがその際、田中良一が、競売物件の置いてある現場敷地の使用権限を有するとして、競落人は競落後一週間以内に競売物件を搬出するよう求めたこともあつて、本件担当執行官の催促にもかかわらず、競買等のため参集していた者達は競買の申出をしなかつた。そこで本件担当執行官は、やむなく競売中止手続をとろうとしていたところ、黒川十五が①ないし④物件につき、各金三〇万円で競買を申出で、その後競り合いのうえ、各金五〇万円となつたので、同執行官は、①ないし④物件について各金五〇万円(評価額と対比してみると、①物件では10.5パーセント、②物件では7.7パーセント、③物件では13.3パーセント、④物件では35.7パーセント、時価と対比してみると、①物件では4.0パーセント、②物件では3.2パーセント、③物件では7.1パーセント、④物件では3.3パーセント)で黒川の競落を許可した(別表E欄参照。なお、④物件の数量は、地崎工業を債権者とする仮差押執行手続の際の算定数量に訂正した。)。

(六)  本件担当執行官は、右同日引続いて、前記拓釧建設及び田中良一の委任に基づき、原告の所有にかかる⑤物件を差押え、その単価、数量、価額の算定評価については、地崎工業を債権者とする前記仮差押執行手続の際のそれを踏襲した(別表F欄参照)。

(七)  また本件担当執行官は、昭和五一年八月二八日前記拓釧建設及び田中良一の委任に基づき、帯広社会保険事務所が同年一月三〇日に差押え、同年八月二七日にこれを解除した、原告の所有にかかる⑥物件を差押えたが、その数量は、右差押の際のそれを踏襲し、また価額については、同事務所が右差押にあたつて金一二〇万円と評価しながら買受申出人なしとして差押を解除したことを参酌して、金一〇〇万円と評価した(別表G欄参照)。

(八)  そして本件担当執行官は、昭和五一年九月一三日、右各差押に基づき、⑤、⑥物件についての競売期日を開き(いずれも一回目)、最高価競買申出人である杉山達雄に対し、⑤物件については金三五万円(評価額と対比すると、その3.8パーセント、時価と対比すると、その2.9パーセント)、⑥物件については金一五万円(前同一五パーセント、2.0パーセント)で、それぞれその競落を許可した(別表H欄参照)。

以上の事実が認められ、<証拠>中、右認定に反する部分は、前掲各証拠と対比すると採用することができず、他に右認定を左右する証拠はない。

イ  評価方法について

右認定事実によれば、執行官が差押物の算定評価にあたり、高価物でない限り、鑑定人をして評価させるか否かはその裁量に属しているとしても、本件各物件が、建設土木資材等に用いられる砂利、砕石類で、その数量がそれぞれ数千立方メートルをこえる膨大(したがつて価格も高額)なものであつて、しかも屋外に堆積された状況にあり、加えて先行する同一物件に関する仮差押執行手続において、その数量、価額の算定評価の拠りどころとした各債権者の算定評価にかかる①ないし⑤物件の単価、数量、価額が、著しく異なつており(別表A、B欄参照)、自らはかかる算定評価につき専門的知識、経験を有しないのであるから、本件担当執行官は、昭和五一年四月八日、同年七月二四日、同年八月二五日、同月二八日の本件各物件の差押については、その算定、評価につき、債務者側の意見を求め債務者側において執行官の算定、評価額に同意したなど、特段の事情がある場合は格別、そうでない場合には、鑑定人を選任して本件各物件の数量、価額を算定評価させたうえ、正当な算定評価額を決定すべきであつたというべきである(拓釧建設を債権者とする昭和五一年四月八日の差押執行手続が、同日行われた地崎工業を債権者とする仮差押執行手続に先行して行われたものであるとしても、当初の算定評価を再検討して改めるべきであつた。)。

これに対し、被告は、右特段の事情に該当すべき事由として、第一に、本件担当執行官は、砂利等の採取販売業者の多い十勝地域では、その取引価額等を容易に調査することができ、鑑定人を選任するまでもなく、その知見を補うことができたと主張するが、本件担当執行官が、次に述べる各債権者の意見を徴したこと(これも、相互に大幅に食違つた内容であつたことは前記認定のとおりであり、右主張事実だけでは到底前記特段の事情があるということはできない。)を除いては、砂利採取業者等に本件各物件の取引価額等を尋ねるなどして、その知見を補充したことを認定できる証拠はない。

被告は第二に、①ないし③及び⑤物件の数量、価額の算定評価は、地崎工業を債権者とする仮差押執行手続の際に、同債権者が、砕石類の数量、価額等を算定、評価できる者として同道してきた技術者と砕石類の専門家というべき原告の工場長野口との協議結果に基づく算定評価を踏襲したものであり、④物件のそれは、いずれも砕石類の専門家と目される債権者(白幡末吉)と債務者原告の工場長野口との協議結果に基づく算定、評価を踏襲したものであると主張し、証人西岡亨の証言中にはこれに副う部分があるが、以下に述べる事実関係と対比すると採用できず、他にこれを認めることができる証拠もない。かえつて、前記認定事実によれば、(イ)地崎工業が同道してきた高橋剛らは、土木業者であつて、砂利、砕石業者ではなく、また同人らは数量の概数計測のため派遣されてきたにすぎず、地崎工業の仮差押執行手続における仮差押物件の評価は債権者側が一方的に行い債務者側の野口は何らこれに関与していなかつた。また、(ロ)④物件については、数量価額とも債権者である広尾砂利側の独自の見解に基づく一方的算定評価を踏襲したものであり、野口はこれに何ら関与していないのである。

また被告は第三に、⑥物件の数量、価額の算定評価にあたつては、本件担当執行官は、さきにこれを差押えた帯広社会保険事務所のそれを斟酌又は踏襲したと主張し、証人西岡亨の証言中にはこれを副う部分がある。しかしながら、同証人の証言によれば、本件担当執行官は、右事務所が昭和五一年一月に⑥物件の価額を金一二〇万円と評価して差押えた買受人なしとしてこれを解除したとの事実のみに基づいて、右物件の価額を金一〇〇万円と評価したのであり、同事務所がいかなる根拠、理由に基づいて右評価に至つたのか、またいかなる理由のため右物件の買受人が現れなかつたのかについて何らの調査、確認方法も講じていないことが認められるから、①ないし⑤物件についての評価が分かれており、⑥物件について特に評価が容易であるとも窺えない以上、結局、被告主張のような事実があるからといつて、それだけでは、⑥物件の価額評価にあたり、鑑定人による算定評価の必要がないとすべき特段の事情があるとはいえない。

被告は第四に、本件各物件の数量、価額の算定評価に対しては、立会当事者から何らの異議も唱えられなかつた旨主張するところ、<証拠>によれば本件各物件の各(仮)差押執行手続の際、債権者側ではその算定評価に異を唱える者はなかつたこと、他方債務者である原告の取締役工場長である野口は、別表AないしD及びF欄各記載の各(仮)差押執行手続の際、債務者の社員として立会い、各(仮)差押調書に署名押印したことが認められるが、原告が右各調書記載の単価、数量、価額に同意したことを認定できる証拠はなく、右認定事実だけでは、鑑定人による算定評価を要しないとすべき特段の事情があるものとはいえない。

被告は第五に、本件担当執行官が原告に対し、本件各物件の各(仮)差押調書を送達したが、原告はその記載内容について何の異議も述べなかつた旨主張し、<証拠>中にはこれに副う部分があるけれども、右事実があるからといつて、直ちに原告が右各調書記載の単価、数量、価額に同意したものとはいえないし、鑑定人による算定、評価を要しないとすべき前記特段の事情があるとはいえない。

そして、他に前記特段の事情に該当する事由を認定できる証拠はない。

以上のとおりであるから、本件担当執行官は、本件各物件の差押にあたつては、適当な鑑定人を選任のうえ、その鑑定人のした算定評価に基づき、本件各物件の正当な算定評価額を決定すべきであつたというべきであるが、同執行官がこれをせず、債権者側の一方的評価算定等に基づき、その数量、価額の算定評価を行つたことは、前記認定事実のとおりである。

ロ  競落許可について

競売の目的は、自由な競り合いにより、最も公正かつより高価な競落を目指すものというべきところ、前記認定事実によれば、本件担当執行官は、少くとも②、⑤物件(高価物件であり、消資材として一般に流通するもの。)については、自らの評価額と比べても著しく低額の競買申出を受けたのであつて、このような場合には、その競落を許すことは競売の目的に反し競売の信用を失墜させるものであるから、執行官は、特段の事情、即ち、競売を中止し、後日改めて競売期日を開くなどの措置をとつてみても、右申出額より高価の申出がなされないことが明らかであるような事情がある場合は格別、そうでないときは、競落を許可せず、差押物件の(再)鑑定(執行官手続規則三二条)等により、その評価を再検討し、また特別の換価方法についての執行裁判所の職権発動(民訴法五八五条の二)を促す上申手続等をしたうえ、可能な限り差押物を高価に競売するように努めるべきであるといわなければならない(なお被告は、競買申出価額が、社会通念上明らかに不相当といえるほど低額であり、かつ再度の競売又は任意の売却方法によつてより高価に売却できる充分な見込みがあるときに、初めて、執行官は、競落を許可しないことができる旨主張し、<証拠>を援用するが、右<証拠>の記載も評価額と対比して著しい低額の競買申出がなされた場合に関する右判断と何ら矛盾牴触するものではない。)。

これに対し被告は、右特段の事情に該当すべき事由として、第一に、本件各物件には死石が多く、石類生産の豊富な北海道では、必ずしもすぐに買手がつくかどうか疑わしく、輸送費もかなりの額となるため、本件担当執行官が得た情報ではただでもいらないという者すらあつたことを挙げ、証人西岡亨、同阪井和美の各証言中にはこれに副う部分があるが、後掲各証拠及びこれによつて認められる事実関係と対比すると、容易に採用し難いか、又は前提自体に誤まりがあるため採用できず、他に右主張を認めることができる証拠はない。かえつて、<証拠>によれば、本件担当執行官が「死石」のことを知つたのは、本件訴訟が提起された後のことであり、本件各物件の競売当時、それに含まれる死石の量については何らの知識もなく、従つて、競落許可にあたりこの点を斟酌してはいないこと、一般に砂利、砕石類に死石の混入を避けることはできないが、本件各物件中に占める死石の割合は、通常の砂利、砕石類と比べても多くはなく、そのため本件各物件の比重が大きいこと、阪井和美は本件担当執行官から、本件各物件の競買人を探すよう依頼されたが、阪井自身、本件各物件が未だ水洗いを施されていない陸砂利の類であると誤解していたため、これを前提として十勝帯広方面では最大の建設業者に問合わせたものの、(水洗いを要するのであれば)ただでもいらないといわれて、その旨同執行官に伝えたけれども、本件各物件はいずれも機械的処理による水洗いを経た後のものであつたことが認められる。

被告は第二に帯広社会保険事務所が、換価の見込みが立たないため、⑥物件の差押を解除したことを挙げ、<証拠>によれば、本件担当執行官は昭和五一年八月二五日の競売期日を開くにあたり、帯広社会保険事務所がさきに差押えていた⑥物件につき、換価の目途がたたないため、これを解除する意向であることを聞いていたこと、同事務所は同月二七日右差押を解除し、右同日その旨釧路地方裁判所帯広支部執行官に通知したことが認められ、また⑥物件が帯広地方では一般に取引されていない砕石類であることは前記認定のとおりであるが、本件担当執行官が右社会保険事務所に対し、右解除事由の真実性相当性を確認、調査するような措置をとらなかつたことは前記認定のとおりであり、また⑥物件の換価が困難(なお、⑥物件に粒度調査を施せば、帯広地方でも規格品として通用しうることは前記認定のとおり。)という情報だけで他の①ないし⑤物件についても同様に換価困難と判断することは早計というほかなく、結局、右のような事実だけでは、直ちに、前記特段の事情にあたるものとは解し難い。

被告は第三に、本件各物件の競売が行われた八、九月の時季は、帯広地方では一般に資材の仕込みの需要が落ち込んでいたことを挙げ、証人西岡亨の証言中にはこれを副う部分があるが、後掲各証拠及びこれによつて認められる事実関係と対比してみると採用することができず、他にこれを認めることができる証拠はない。かえつて<証拠>によれば、帯広地方では砂利、砕石類を使つた土木工事は一般に五月から一一月にかけて行われ、官庁関係を中心とする主たる工事発注は六ないし九月ころを頂点としていることが認められる。

被告は第四に、昭和五一年八月二五日の競売期日の際、田中良一が参集者に対し、搬出期限を一週間とする旨告知した(被告は、加えて、地興牧場関係者が当初右期限を三日とする旨告知したと主張し、<証拠判断略>。)ので、将来より高価な競買申出がなされる可能性が殆どなかつたことを挙げるところ、田中が右主張のような発言をしたことは前記認定のとおりである。しかしながら、田中が右敷地の使用権限を有していたとしても、動産である本件各物件を競落してその所有権を取得する者は、その所有権に基づき、その搬出を行うことができ、敷地使用権者の定めた搬出期限内にその搬出をしなかつたからといつて、法律上その後これを搬出しえなくなるわけでもないことは明らかである。尤も、この場合、事実上の搬出妨害や、搬出完了までの敷地使用損害金の負担を生じることが予想されるけれども、それだけでは、前記のような著しく低い競買申出額(時価の2.0パーセントないし7.1パーセント)より高価の申出額を期待できないとはいえない。従つて、被告の右主張事実が認められるからといつて、これが前記特段の事情に該当するものではない。

被告は第五に、当事者が前記競買申出額に対して異議を申述べなかつたと主張し、証人西岡亨の証言によれば、債務者である原告の取締役工場長の野口が本件各物件の競売期日に立会いながら、その競買申出に対し、何の異議も述べなかつたことが認められるが、それだけでは直ちに前記特段の事情にあたるものとはいえない。

そして、他に右特段の事情に該当すると考えられるような事実を認めることができる証拠はない(なお被告は、本件担当執行官が野口に対し、予め高価競買人を探すよう何度も告げていた旨主張し、証人西岡亨の証言中にはこれに副う部分があるが、証人野口実豊、同川部宏の各証言と対比すると採用することができない。また、前記認定のとおり、④物件の競売期日は、競買申出人なしとして三回中止となつているが、始めの二回はいずれも債権者と債務者間の示談交渉中のものであり、野口は本件担当執行官にその旨告知してあつたのであるから、右のような事実があるからといつて、前記特段の事情があると判断することはできない。)。従つて本件担当執行官は、少くとも②、⑤物件については、自らのした評価額と比べて著しく低い額の競買申出がなされたのであるから、その競落を許可することなく、より高価に売却するため適切な措置をとるべきであつたというべきところ、同執行官が右措置をとらず、右競買申出を容れて、右各物件の競落を許可したことは前記認定のとおりである。

ハ  まとめ

以上によれば、本件担当執行官の、①ないし⑥物件の各算定評価方法(後記のように、時価と対比して著しい低額な競落の結果を招来した。)及び②、⑤物件の各競落許可は、いずれもその裁量の範囲を逸脱したもので、違法有責なものであるといわざるをえない。

五損害

本件担当執行官は、右違法有責な算定評価方法に基づく不当な評価額(時価と対比してみると、①物件では38.5パーセント、②物件では41.7パーセント、③物件では53.2パーセント、④物件では9.3パーセント、⑤物件では74.5パーセント、⑥物件では13.7パーセント)を前提として、本件各物件を競売したため、時価と対比して著しい低額な競落の結果を招来し(①物件では4.0パーセント、②物件では3.2パーセント、③物件では7.1パーセント、④物件では3.3パーセント、⑤物件では2.9パーセント、⑥物件では2.0パーセント)、また②、⑤物件については加えて、自らの評価額と対比しても著しい低額(従つて、時価と対比すると更に一層低額)の競買申出に対し、その競落を許可したのであるから、本件担当執行官は、原告に対し、本件各物件の時価と競落代金額との差額に相当する損害を与えたものというべきである。尤も、本件各物件は競売物件であり、競売の場合時価より安い価額で競落されることが多いことは周知の事実であるが、他方有体動産の強制執行手続が示談によつて中途で終了することなく、最終手続にまで至る事例が少いことも当裁判所に顕著な事実である(因みに、証人西岡亨の証言によれば、本件担当執行官が過去扱つた砂利、砕石類の差押事件約一〇数件のうち、換価手続にまで進んだものは僅か一件しかなかつたことが認められる。)し、本来適正な評価、競売手続に基づく競落価額は時価と一致すべきものであるから、本件各物件が競売物件であることは前記損害額の算定につきその時価を基準とすることを妨げるものとはいえない。

ところで、<証拠>によれば、野口は、昭和五一年八、九月当時原告の取締役の地位にあり、現場工場長として、本件各物件の性質、原価、数量に通暁していたこと、同人は本件各物件の競売期日に立会いながら、競買(価額)の申出、本件担当執行官の呼上及び競落告知に対し、何らの異を唱えるところがなく、立会人として競売調書に署名していること、また、原告は、①ないし④物件が時価と対比して著しく低額で競落されたこと及び本件担当執行官が⑤、⑥物件の差押にあたり、時価と対比して著しく低額でこれらを評価したことを知りながら、昭和五一年九月一三日の⑤、⑥物件についての競売期日に際し、右各物件が不当に低廉な価額で競落されることのないよう努めた形跡のないことが認められ、右認定を左右する証拠はない。以上の事実によれば、野口は、本件各物件の価額がそれぞれ数百万円をこえるものであることを充分知りながら、これを著しく下回る競買価額が申出でられ、かつ本件担当執行官がその申出額を呼上げたのであるから(当初は競落されるものとは予想していなかつたとしても)、その間に原告の現場責任者として、遅滞なく異を唱え、本件担当執行官に再考を促す措置をとりえたにもかかわらず、これを放置し、また原告は、⑤、⑥物件が他の本件各物件同様著しい低額で他に競落される可能性が充分にあることを知り又は知りうべきであつたのであるから、その競売期日までに、右各物件の評価について具体的資料を提示するなどして、その鑑定や再評価を求めるとか、執行裁判所に特別の換価方法を求める(民訴法五八五条)など、自らの蒙ることあるべき損害を未然に防止又は減縮させる措置をとりえたにもかかわらず、これを放置したものである。

従つて、野口及び原告の右各不作為も、原告の前記損害発生の一因となつているものというべきであり、いずれも原告側の過失として、原告が被告に賠償を求めることのできる損害の算定にあたり

別表

物件名

切込砕石

四〇mm

切込砕石

八〇mm

洗砂利

二五mm

洗砂

洗砂利

四〇mm

砕石

二〇~三〇m

合計

物件の評価額等

A

昭和三〇年一二月二二日

仮差押

債権者 広尾砂利

債権元本

三、〇〇〇、〇〇〇円

単価(円/m3)

一〇〇

一〇〇

二〇〇

二〇〇

一〇〇

数量(m3)

二、五〇〇

一、七〇〇

三、一〇〇

七、〇〇〇

三、〇〇〇

一九、〇〇〇

価額(円)

二五〇、〇〇〇

一七〇、〇〇〇

六二〇、〇〇〇

一、四〇〇、〇〇〇

五〇〇、〇〇〇

二、九二〇、〇〇〇

B

昭和三一年四月八日

仮差押

債権者 地崎工業

債権元本

三二、七七〇、〇〇〇円

単価(円/m3)

三〇〇

五〇〇

三〇〇

七〇〇

七〇〇

数量(m3)

九、五〇〇

一五、〇〇〇

七、五〇〇〇

一六、〇〇〇

一三、〇〇〇

五九、〇〇〇

価額(円)

四、七五〇、〇〇〇

六、五〇〇、〇〇〇

三、七五〇、〇〇〇

一一、二〇〇、〇〇〇

九、一〇〇、〇〇〇

三五、三〇〇、〇〇〇

C

昭和五一年四月八日

差押

債権者 拓釧建設

債権元本

一、三二〇、四〇〇円

単価(円/m3)

二〇〇

数量(m3)

七、〇〇〇

七、〇〇〇

価額(円)

一、四〇〇、〇〇〇

一、四〇〇、〇〇〇

D

昭和三一年七月二四日

照査・差押

債権者 田中良一

債権元本

一五、〇〇〇、〇〇〇円

単価(円/m3)

五〇〇

五〇〇

五〇〇

数量(m3)

九、五〇〇

一五、〇〇〇

七、五〇〇

三〇、〇〇〇

価額(円)

四、七五〇、〇〇〇

六、五〇〇、〇〇〇

三、七五〇、〇〇〇

一五、〇〇〇、〇〇〇

E

昭和五一年八月二五日

競売

競落人 黒川十五

単価(円/m3)

五二

三八

六六

三一

数量(m3)

九、五〇〇

一三、〇〇〇

七、五〇〇

一六、〇〇〇

四六、〇〇〇

価額(円)

三〇〇、〇〇〇

五〇〇、〇〇〇

五〇〇、〇〇〇

五〇〇、〇〇〇

二、〇〇〇、〇〇〇

F

昭和五一年八月二五日

差押

債権者 拓釧建設

田中良一

単価(円/m3)

七〇〇

数量(m3)

一五、〇〇〇

一五、〇〇〇

価額(円)

九、一〇〇、〇〇〇

九、一〇〇、〇〇〇

G

昭和五一年八月二八日

差押

債権者 拓釧建設

田中良一

単価(円/m3)

一六六

数量(m3)

六、〇〇〇

六、〇〇〇

価額(円)

一、〇〇〇、〇〇〇

一、〇〇〇、〇〇〇

H

昭和五一年九月一三日

競売

競落人 杉山達雄

単価(円/m3)

二六

二五

数量(m3)

一三、〇〇〇

六、〇〇〇

一九、〇〇〇

価額(円)

三五〇、〇〇〇

一五〇、〇〇〇

五〇〇、〇〇〇

I

原告の主張

単価(円/m3)

二、〇〇〇

二、〇〇〇

一、四〇〇

一、七〇〇

一、三五〇

二、七〇〇

数量(m3)

九、五〇〇

一三、〇〇〇

七、五〇〇

一六、〇〇〇

一三、〇〇〇

六、〇〇〇

六五、〇〇〇

価額(円)

一九、〇〇〇、〇〇〇

二六、〇〇〇、〇〇〇

一〇、五〇〇、〇〇〇

一七、二〇〇、〇〇〇

一七、五五〇、〇〇〇

一六、二〇〇、〇〇〇

一一六、四五〇、〇〇〇

J

裁判所の認定

単価(円/m3)

一、三〇〇

一、二〇〇

九四〇

九四〇

九四〇

一、二二一

数量(m3)

九、五〇〇

一五、〇〇〇

七、五〇〇

一六、〇〇〇

一三、〇〇〇

六、〇〇〇

六三、〇〇〇

価額(円)

一二、三五〇、〇〇〇

一五、六〇〇、〇〇〇

七、〇五〇、〇〇〇

一五、〇四〇、〇〇〇

一二、二二〇、〇〇〇

七、三二六、〇〇〇

六九、五八六、〇〇〇

斟酌すべきであり(なお、<証拠>によれば、原告は、①ないし④物件についても、その差押調書謄本により、本件担当執行官のした低い評価額を知つていたことが認められるが、原告の川部が昭和五一年六月二五日の競売期日に先立ち、本件担当執行官に対し、④物件の競売について尋ねたところ、同執行官が右物件は競落されることはないと答えたので、債権者対策を延期したとの前記認定事実に照らすと、原告が昭和五一年八月二五日における①ないし④物件の競売期日までに何らの措置もとらなかつたことを原告側の過失として斟酌するのは相当ではない。)、その割合は、①ないし④物件につき二割、⑤、⑥物件につき三割と解するのが相当であり、これを本件各物件の時価総額(金六、九五八万六、〇〇〇円、別表丁欄参照)から控除したうえ、これより更にその競落代金二五〇万円を控除した金五、一二一万四、二〇〇円が賠償されるべき原告の損害である。

六被告の責任

本件担当執行官が釧路地方裁判所帯広支部所属の執行官であることは前記のとおりであるから、以上認定の事実によれば、同執行官は被告の公権力の行使にあたる公務員として、その職務を行うにあたり、違法有責な行為によつて、原告に対し金五、一二一万四、二〇〇円の損害を与えたものであり、被告は、国家賠償法一条に基づき、原告に対し、右損害を賠償すべき責任がある。

七結論

従つて、原告の被告に対する本件請求は、金五、一二一万四、二〇〇円及びこれに対する本件訴状が被告に送達された日の翌日であることが記録上明らかな昭和五二年三月五日から支払ずみまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき、民訴法九二条、仮執行宣言及び同免脱宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(篠原幾馬 和田日出光 佐藤陽一)

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